不動産を使った相続税の節税を巡る裁判について、報道がなされました。
結果は、納税者敗訴。
争点は、「通達による評価が著しく不適当(安すぎる)」かどうか、でした。
これは、今後相続を迎える方全員に影響がある税法の謎と危険性を孕んでいると考えられます。
・裁判について詳しく
・何が問題なのか
・今後への影響は?
・最後に
※あくまでも私見や推測を混ぜたコラムです※
裁判について詳しく
内容について、かいつまんで内容をまとめると次の通り。
・相続の数年前に2つの不動産を購入。
・不動産二つは、合計で約14億円でローンを組み購入。
・相続時の法令(財産評価基本通達)に従って評価した金額は約3億円。
・鑑定評価額は約13億円。
・国側(税務署側)は、約3億円ではなく、約13億円で評価するように処分した。
・最高裁まで争った結果、国側(税務署)の処分が適当だと認められた。
そして、注目された点をいくつか紹介します。
①第一審、第二審は納税者が敗訴していたが、最高裁で口頭弁論が開かれたた。
つまり、「逆転勝訴の可能性があった」
②もし13億円で評価することが最高裁でも是とされた場合には基準が示されるのではないかと考えられた。
つまり、「どういう状況だと、鑑定評価の方を採用すべきかという基準が示される期待」
③いずれにしても、相続税対策や相続税の申告に与える影響が大きい。
何が問題なのか
一見すると、「13億円と3億円では差がありすぎる」「金持ちはけしからんから妥当だ」
とも思える判決です。
実際に、否認の根拠とされた財産評価基本通達6項には次のようにあり、
このケースでは、著しい乖離があるといって差し支えないと考えられます。
「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」
では、何が問題なのか、何点か見てみましょう
①合法でも否認される可能性がある、という予見可能性に与える影響
メディアの報道だけだとよくわかりませんが、詳しく見ると、
節税を目的として不動産を購入したような経緯がありました。
この点、「税負担が不公平だ」となる一つの材料とされています。
しかし、資産家の方が税負担が減ることを目的にしないで不動産投資を行うことがあるでしょうか?
また、過去には「相続直前に購入し、相続直後に売却した」事例がありますが、
その事例と比較しても今回は1つの不動産は保有し続けているなど、
ことさら節税を目的としているとは言い切れないのではないでしょうか。
②どのような状況であれば鑑定評価を利用すべきかがわからない
相続税は、申告納税方式です。
申告納税方式とは、納税者が自ら申告書を作って、申告する方式です。
つまり、著しく乖離していて、これは法令通りではいけないなと考えられる場合には、
鑑定評価を利用することになります。
でも、この「鑑定評価を適用すべき時」とはいつなのか、これが全く分からないままです。
法律、税金においては、「予見可能性」とか「法的安定性」というものが重要視されます。
それに対して、今回の一連の裁判の結果、より”よくわからないもの”であり、
「国が使いたいときに使う後出しじゃんけん」だとも取れます。
今後への影響は?
今後への影響は、様々な方面にあると思います。
まず不動産業者は相続税の節税を目的にした不動産投資は勧めにくくなると思います。
あるいは新しい切り口がでてくることでしょう。
会計事務所は、相続税の申告やシミュレーションの際、あるいは不動産購入のご相談を受けた際など税務相談時に、
この点を考慮しないと訴訟に発展する可能性があります。
しかも、法令に従っても、従わなくても、です。
不動産鑑定士や不動産屋さんは、鑑定評価の依頼が増えるでしょう。
一方で、節税に使うことを暗に目的とした業者も出回るかもしれません。
法学者の方は、今回のことについて様々な論文を書くことになると思います。
そのうち法令も改正されるでしょう。
最後に
法令が改正され、より明確な基準になることを期待します。
それまでは次のような対応を取ろうと思います。
①不動産投資の際には、節税目的のみを目的としないこと。
そしてそれを明確に証拠として残す事
②相続対策は早めに行うこと
③申告などに際しては、総則6項の可能性を必ず確認すること