企業の潤沢な内部留保が注目を集めています。そこで内部留保の使い方を考えてみましょう。

内部留保は財務諸表上の用語ではないため、統一的な概念規定はありません。
本稿では比較的狭くとらえ、企業が課税後積み立てた利益剰余金として論を進めます。

利益剰余金ですから、貸借対照表の純資産の一部になります。
純資産は貸方ですから、借方に内部留保に対応する資産があるはずです。
その資産が何であるかは一義的に特定できませんが、
内部留保の大きい会社はキャッシュも潤沢なことが多いので、
「内部留保=キャッシュ」という発想につながります。
その結果、「内部留保を使う(減らす)」ということは「キャッシュを使うことにより内部留保を減らす」ということになるわけです。

「豊富な内部留保がある企業はもっとキャッシュを使うべきだ」というとき、
キャッシュの使い道としてよく出てくるのは、
従業員に対する賃金の引上げ、設備投資、株主に対する配当の3つです。
賃金、設備投資、配当いずれもキャッシュを使うことには変わりがありませんが、内部留保を減少させる道筋は異なります。

賃金と設備投資は損益計算書の当期純利益を通して、内部留保に影響を与えます
賃金はキャッシュ流出額の全額がその期の損益計算書の費用となりますが、
設備投資は減価償却費という形で徐々にしか費用化できませんから、その期の損益に与える影響は軽微になります。

また、賃金も設備投資も内部留保を減らすためには、損益計算書の最終損益を赤字にしなければなりませんから、
経営者としては容易に決断できる話ではありません。

その点、配当は損益計算書を通さずにキャッシュ流出額がそのまま内部留保の減少になりますから、
内部留保の使い道としては最も有効です。また、本来の株式会社理論からいっても理にかなっています。
つまり、会社で使い道のなくなったキャッシュは株主に返還すべきだというのが株式会社の本筋だからです。

ただ、この理論にも問題があります。
この考え方は、会社は株主のものという思想が背景にあるからです。
会社が純粋に株主のものであるなら、余剰資金は全額株主に分配して、
稼げなくなった会社は解散するというのはおかしな話ではありません。
しかし、会社は株主のものと単純に割り切るわけにもいきません。
会社は従業員のものでもあります。今勤めている会社がなくなっても
すぐに他の会社に移動できるような雇用の流動化が進んでいる国ならまだしも、
我が国はそういう国柄ではありません。会社の業績が多少悪くなってもある程度持ちこたえ、
次の展開を考えてくれる会社でなければ、従業員は安心して働けません。
そう考えると、内部留保があるからといって、安易に配当として株主に分配してしまうのも素直にうなずけません。

高度成長時代には、成長機会がふんだんにあり、賃金や設備投資が旺盛で、
企業の悩みは資金調達でした。現在の成熟経済における資金の使い道に困るということは
それに比べれば贅沢な悩みかもしれませんが、なかなか解決の難しい問題でもあります。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)